(乳がん)避けたい相互作用 タモキシフェン+パロキセチン

タモキシフェン+パロキセチン 相互作用

乳がんの術後ホルモン療法(閉経前)で使われるタモキシフェン(TAM)は、抗うつ薬であるパロキセチン(商品名:パキシル)との間に嫌~な相互作用が報告されています。

ご存知の方も多いかと思いますが、TAMの添付文書の相互作用(併用注意)の欄には、以下のような記載があります。

選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI) パロキセチン等

臨床症状・措置方法: 本剤の作用が減弱するおそれがある。併用により乳癌による死亡リスクが増加したとの報告がある。

機序・危険因子: CYP2D6阻害作用により本剤の活性代謝物の血漿中濃度が低下したとの報告がある。

タモキシフェン錠 添付文書

死亡リスク上昇とまで書かれたら、併用注意といえど避けた方が良さそうですね。

ではどのようにこれを回避するかというと、2パターンあると考えます。

  1. パロキセチンを影響の少ない薬剤へ変更、又はパロキセチンの中止
  2. TAMを変更

の2つです。

実際に私が介入した経験もあわせて解説します。

パロキセチンを影響の少ない薬剤への変更、又はパロキセチンの中止

パキシルのCYP2D6阻害作用が強力であることが相互作用の原因となっているため、CYP阻害作用が弱い抗うつ薬への変更を検討します。

抗うつ剤の中でCYP2D6阻害作用が弱いものはベンラファキシン(商品名:イフェクサー)、エスシタロプラム(商品名:レクサプロ)とされています(医薬品情報学 18 (2), 64-71, 2016:タモキシフェンのCYP阻害作用に関連する相互作用情報 を参照)。

医薬品情報学 18 (2), 64-71, 2016:タモキシフェンのCYP阻害作用に関連する相互作用情報 を参照

この2剤ならTAMでの乳がん治療への影響を最小限にすることができそうです。

私の場合ですが、TAM導入時に患者さんが他院から処方のパキシル内服中の時は、パキシルの処方医に宛てた手紙を作成して患者さんへ持たせるようしています。

手紙の内容としては、以下の4つです。

  • 乳がんの術後ホルモン療法としてTAMが開始になったこと
  • 現在処方されているパキシルとTAMの間に避けた方が望ましい相互作用があること
  • 可能であればパキシルから相互作用の少ないベンラファキシンやエスシタロプラムに変更可能かどうか検討いただきたいこと
  • 精神疾患上どうしてもパロキセチンが必要な場合は、教えていただいきたいこと

3例ほどこの手紙を、患者さん経由で処方医に出したことがあります。

結果として次回来院時には、2例はベンラファキシンやエスシタロプラムに薬剤が変更されていました。1例は精神状態も安定しておりパロキセチンも低用量であっため中止して様子を見ます、といった結果でした。

私が関わった3例の患者さんは、その後も大きな問題なく過ごせていましたが、薬剤変更・中止によりその後の精神状態が悪化しないかも経過を見ていく必要はありそうです。

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TAMを変更

精神疾患の治療上、どうしてもパロキセチンの使用が必要な場合は、TAMの変更を考慮する必要が出てきます。

『乳がん診療ガイドライン2022』を参考にすると、閉経前でTAM以外を使用する場合は、LHーRHアゴニスト(リュープロレリン等)+アロマターゼ阻害剤(レトロゾール、アナストロゾール等)の併用での対応となりそうです(推奨の3番目に書いてますね)。

CQ2   閉経前ホルモン受容体陽性乳癌に対する術後内分泌療法として何が推奨されるか?

乳がん診療ガイドライン2022

基本的には、精神疾患よりも乳がん治療を優先することが一般的なので、TAMを変更することはほとんどない思われます。

私は今のところ、患者さんのなかでどうしても『パロキセチンでないとダメだ』という方は経験がないです。

もしそんな患者さんと会った時には、主治医へしっかり情報提供して、一緒に治療方針を考える必要がありそうですね。

まとめ

  • パロキセチンはCYP2D6阻害作用が強力であることから、TAMの効果を減弱させ、死亡リスクを上昇させる可能性がある
  • パロキセチンの代わりに使えるCYP2D6阻害作用が弱い抗うつ薬にエスシタロプラムやベンラファキシンがあり、TAMへの影響を少なくすることが出来る
  • どうしてもパロキセチンでの治療が必要な場合は、TAM以外の薬剤(LH-RHアゴニスト+アロマターゼ阻害剤)への治療変更も可能か相談する必要がでてくる

最後まで読んでいただきありがとうございました。

読んだ方が少しでも役立つ情報があれば嬉しいです。

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